十角館の殺人/綾辻行人
・本格推理小説で、これほど先の読めないお話を私は知らない。
今の私を見ていただけるものなら、ご覧にいれたいものだ。誰もが「まず風呂に入れ」と言わんばかりの有様である。全身、冷や汗でぐっしょり。おまけに頬には一筋、ヘンなラインが引かれている。涙の跡では無い事をここに留記しておく一応。
内容に関して書くとすると、これが非常に難しいのだけど、
「孤島の上、七人の探偵による、探偵皆殺し事件」。
それぞれのキャラクタが際立っており、探偵役であり被害者であり犯人である"名探偵の生みの親たち"の心情。また端役として登場する数々のキレ者らの動き。これが非常に生々しくも、ごく自然に「これは架空ですよ」と思わせるため、読書の間に、現実と非現実とを行き来する破目になる。
徐々に進行する物語、その一節にも大いに揺らめく私の心は、中途であえなく難破してしまったようだった。
一人死ぬごとに、これほど心を痛めつけられるとは。
まるで船酔いである。物語が一揺れするたび、つらい思いをした。
まず一人目に、最も殺されてはならない人物が死ぬ。名前が出たときに泣いた。
二人目は、複雑な気分。多分コイツが主犯なので、まあ、妥当。
三人目、四人目ともなると、物語も終盤を迎えて大きく揺れ動く。
五人目。
六人目。
そして、七人。
「そして誰もいなくなった」てのはエラリークィーンの最高傑作の一らしいけど、持ってない。近場に売ってないから読めない。
これほど私の心を乱した推理小説はないだろう。
これほど犯人に気づいたときに苦しむ推理小説はなかろう。
これほど、
これほど探偵の愚かさを明瞭にした物語もない。
鬱になりたい人、マジでおすすめ。